シーバスの適水温としてはおよそ15℃~18℃で広く知られているようですが、実際のところどうなのか?
研究機関などの論文資料を読み漁ったところ、興味深かったのでまとめてみます。
生息水温はかなり広い
日本近海におけるスズキ(シーバス)の生息域は、北は北海道から南は鹿児島県までと言われており、かなり広範囲に生息していることがわかります。
水温データについては、日本水産資源保護協会の研究資料によると、
稚仔魚期・・・16℃~24℃
成魚期・・・7℃~30℃
という研究結果が公開されています。
成魚になるほど水温適応能力に優れ、1年中日本各地で釣果が上がっている実績があることから、この7℃~30℃というのは納得のいくデータです。
16℃以下の低水温、または24℃以上の高水温だと、稚仔魚の生息には適さないものの、成魚になれば十分適応できる水温であるため、大きなサイズの釣果が望めることがデータから読み取れます。
また、これは完全に私の感覚的主観ですが、南のエリア(=水温の高い場所)であればあるほど、大きいサイズの釣果が目立つような気がしています。
例えば、日本記録である11.9㎏のマルスズキが釣れたのも大分県です。
もしかすれば水温と成長(サイズ)にも何らかの相関性があるのかもしれません。
シーバスが好きな水温は何度?
公益財団法人海洋生物環境研究所では、シーバスの好む温度(=選好温度)を調査するためにとても興味深い研究をされていました。
その研究とは、温度勾配水槽(同一水槽内で一定間隔毎に徐々に異なる水温域を作った水槽)を設け、この中に対象魚(スズキ)を放流し、魚が好んで定位した水温域の温度を調べるというもの。
この研究によると、シーバスの選好温度は以下の結果となっています。
・選好温度:24℃~30℃
・最終選好温度:29℃
というわけで、この研究ではスズキ(シーバス)の大好きな水温は29℃であるという結果が出ていますが・・・
個人的には高水温すぎるのでは?と思ってしまいます。
この研究文献を参照すると、
「最終選好温度とは、シーバスが高い温度を好む行動を示すのか、逆に低い温度を好むのかという、温度に対する行動の方向を決める内的基準として用いることができる」
と記載があるので、必ずしも「シーバスの好む温度」というわけでは無いようです。
29℃というとぼくの住む東北地方では真夏のピーカン時期の高水温期になりますが、このシーズンはそれほど釣果の実績は多くなく、むしろ渋い時期とも言えます。
このことから、実験時の季節的影響、捕獲した個体の生息海域の影響などもあるのではないかと個人的に予想します。
あくまで一例としての参考データです。
東京湾のシーバスは20℃前後を好む
東京大学大学院 農学生命科学研究科もまた興味深い研究をしていました。
東京湾のスズキを捕獲し、魚体や尾鰭・胸鰭等に各種センサー装着し、遊泳能力や移動行動をサンプリングしています。
この実験データを以下に抜粋します。
・経験水温は
夏季:21.5℃±2.4℃
秋冬:18.5℃±2.3℃
・経験水深は
夏季:3.8m±1.9m(最大20.2m)
秋冬:3.8m±2.9m(最大29.5m)
このことから、夏は21℃前後、冬は18℃前後を好むようです。
また、遊泳水深については、夏と冬とで平均水深は大きな違いは無いものの、最大潜行水深は冬の方が深いレンジに居ることがわかります。
この文献によると、スズキの魚体構造は長距離回遊には向いておらず、また15℃~20℃において移動効率(エネルギー代謝効率)が最も良いことが示されています。
エネルギー代謝効率が良い=活動量が多い=活性が高い、と予想できます。
ベイトの水温条件
シーバスの大好物といえばカタクチイワシ。
カタクチイワシの生息水温には諸説ありますが、概ね10℃~20℃程度で、適水温は14~17℃という説が有力なようです。
シーバスの生息水温(16℃~24℃)と比較すると、やや低めな印象を受けます。
しかし、シーバスのエネルギー代謝効率の良い温度(15℃~20℃)にちょうど網羅します。
シーバスの捕食対象(ベイト)はカタクチイワシだけではなく、生息海域やシーズンによって様々な偏食性(いわゆる〇〇パターンと呼ばれるもの)が存在するので、カタクチイワシのデータはあくまで参考値です。
結論(まとめ)
・日本近海におけるシーバスの生息水温は16℃~24℃
・エネルギー代謝効率が良い(=高活性な)水温は15℃~20℃
・東京湾の個体は夏21℃、冬18℃くらいの水温を好む
・冬は生息水深レンジが深い場合がある
・サイズの大きい成魚ほど水温順応しやすく、適正水温から外れた水温域でも生息している
・ベイトであるカタクチイワシは14℃~17℃を好む
以上、参考にしてもらえればと思います。